戦乱によって絶えず移ろいゆく人の世の儚さと、そうした戦乱のなかにあっても常に変わらぬ美しさを保ち続ける自然の姿との対比を壮大なスケールで描いた文学作品としては、

「国破れて山河在り、城春にして草木深し」という言葉ではじまる中国の唐の時代の詩人である杜甫の『春望』の句が有名だが、

こうした古代の漢詩が表現している世界観は、新型コロナウイルスの流行が世界中で猛威を振るっている今この時の世界の姿にも通じるところがあるように思う。

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植物にとってのコロナウイルスと動物にとってのタバコモザイクウイルス

世界規模での新型ウイルスの流行は、ドイツのメルケル首相やイギリスのボリス首相が戦争になぞらえて語っているように、それは人間社会と見えない敵であるウイルスとの戦いを意味することになる。

そして、感染する生物の種族を選ぶウイルスとの戦いにおいて、ウイルスの側から感染相手として選ばれなかった生物たちは、その戦いとはまったく無関係な局外にとどまり続けることになる。

もっとも、コロナウイルスは、人間だけではなく、自然宿主となることが多いコウモリはもちろん、犬や猫、鳥や豚などといった様々な動物に感染する潜在的な能力をウイルスの種族としては持っているので、これらのウイルスたちが人間との距離が近いペットや家畜などの動物たちに感染することはあり得るかもしれない。

魚やクモくらいまで遠く離れていれば、動物であってもほとんど影響は受けないとは言えるのかもしれないが。

しかし、こうしたコロナウイルスと呼ばれる人間や動物に感染するウイルスがさらに大きな種族の垣根を越えて、草花や木々といった植物たちの世界にまでその版図を広げていくことはほとんどあり得ない。

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植物の葉を蝕み、枯死させていくタバコモザイクウイルスが人間を含むすべての動物たちにとってまったく無害な存在であり続けるのと同じように。

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現代におけるウイルスとの戦いと古代における国破れて山河在りの世界観

そして、そういった意味では、

人間と植物、あるいは、動物と木々や草花とは、同じ空間と時間を常に共有しているように見えて、実際には異なる世界の内に生きていると言える。

少なくともウイルスとの関係という観点においては。

世界中の人々の生命が新型ウイルスの危険へとさらされ、世界中の都市が医療と経済の両面における大規模な崩壊の危機に瀕している今この時においても、

春の暖かい気候のなかで草花や木々は芽吹き、美しい花を咲かせていく。

これがもしも人間同士が戦う本物の戦争であったとするならば、現代科学が生み出した地上に太陽を創り出すような恐ろしい兵器たちが生み出す戦火の炎が木々へと燃え移り、植物たちの世界をも焼き尽くしていくことがあるかもしれないが、

ウイルスとの戦いにおいては、ほとんど人間に対してだけ選択的に感染を広げていく新型コロナウイルスが生み出す見えない炎は、自然界における植物たちの世界にとってはまったく影響のない無関係な出来事ということになる。

そういった意味では、国破れて山河在りという句のなかで語られている世界観は、現代においては、世界のすべてを根こそぎに焼き尽くしてしまう恐ろしい兵器が飛び交う本物の戦争よりも、目に見えない敵と戦う静かな戦争であるウイルスとの戦いの内にある今この時にこそ人類に対して与えられた最もふさわしい句となっているのかもしれない。

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