今回の新型コロナウイルスの世界規模での大流行については、マイクロソフトの創業者にしてIQ160の億万長者としても名高いビル・ゲイツが5年前に行った演説において、すでにこうしたタイプの新型ウイルスの流行によって生じることになる世界の危機をかなり的確な形で予見している。

そして、こうした人間が持つ偉大な想像力と知性の力によって、未来の世界において起こり得る危機の姿を予め見通していたかのように鮮やかに描き出している作品としては、

1990年に公開された8つの関連作品が一つに連なったオムニバス形式の映画にして、黒澤明監督が自分自身で脚本もすべて手がけた作品にあたる『夢』(Dreams)の中に出てくる「赤富士」(Mount Fuji in Red)と題された映画作品を思い出す。

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夢の赤富士で描かれている放射能の色とウイルスの微粒子の色

真っ暗な画面の真ん中に「こんな夢を見た」という白い文字が現れたのちに始まるこの映画作品においては、

大勢の人々がごった返す喧騒の中で何が起こったのかも分からずに困惑している主人公の男に対して、黒い背広を着た物知り顔の紳士が原子力発電所にあった6つの原子炉が連鎖的に次々と爆発を起こしているのだと告げる。

富士山を背景に赤々と燃える原子力発電所の爆炎の姿と、その禍々しい赤い色彩を放つ赤富士のふもとで逃げ惑う大勢の人々の姿が映し出されたのち、映像は海を背にした切り立った断崖の場面へと切り替わる。

この場所にもすでに赤い色に着色されたプルトニウム239や、黄色に着色されたストロンチウム90、紫色に着色されたセシウム137といった放射性物質の微粒子たちが生み出す毒の霧が迫ってきていて、

被災者となった見知らぬ母親と子供を守ろうとする主人公の男が自分の上着を脱いで、迫りくる色とりどりの色彩を放つ放射性物質の微粒子を追い払おうともがきながら静かに濃い赤い霧の中に飲み込まれていくシーンでこの映画の章は幕切れを迎えることになる。

もしも、人々の命を次々に奪い去っていく新型ウイルスの微粒子にも色をつけて、その死神の姿を実際に目で見ることができるとしたならば、やはりその色は、戦火の炎とその猛火が命を奪っていくことになる人間の血を連想されるような濃い赤い霧の姿となるのかもしれない。

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見えない脅威を正しく恐れるために必要となる想像力と知性の力

ビル・ゲイツは、冒頭で挙げた5年前の演説において、

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最終的には1千万人以上の人々の命を奪うことになるかもしれないその新型ウイルスは、ウイルスに感染しても症状が出ないこともあり、感染者がそのまま飛行機に乗ったり、市場に行ったりすることによって感染を世界中へと拡大していくことになると語っていて、まさに、今回の新型コロナウイルスの特徴をすでに予見していたかのような優れた洞察を示している。

そして、それと同じように、

黒澤明監督は、東日本大震災が起こる20年以上も前の時点において、福島の原子力発電所で起こることになる爆発事故や放射能汚染といった事態をすでに予見していた、より正確に言えれば、そうした事態が十分に起こり得る出来事であるということを予め想定していて見通していたと考えられるのである。

もっとも、この『夢』の「赤富士」と題された映画作品のなかでは、くだんの黒い背広の紳士が断崖の上から海へと身を投じる前に語った言葉として、

「しかしまったく人間は阿呆だ。放射能は目に見えないから危険だと言って放射性物質の着色技術を開発したってどうにもならない。知らずに殺されるか、知っていて殺されるか、それだけだ。死神に名刺をもらったってどうしようもない。」

というある意味ではニヒリズム(虚無主義)ともとれる言葉も語られてはいるのだが。

いずれにしても、危機を見通すことができるということと、その危機を避けることができるということは別の問題であるにせよ、

ウイルスや放射能といった目に見えない脅威を我が事としてしっかりと受け止めるためには、そうした目に見えないものに自分の心の内で色をつけて見るような豊かな想像力が必要となり、

そうして把握された目に見えないものを正しく恐れるためには、その脅威を的確に判断するための知性の力が必要となる。

現在、日本を含む世界中の国々は、新型ウイルスの毒の霧の中へと飲み込まれつつある状態にあり、そうした世界を包んでいるウイルスの霧はその赤い色の濃さを日々深め続けている状況にある。

そして、そうした新型ウイルスや放射能といった目に見えない脅威に向かい合ってそれに正しく対処していくためには、世界中の一人一人の人間における想像力と知性の力が必要とされていると考えられるのである。

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